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山の風景を守るために 三俣山荘の「道直し」

高尾店

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こんにちは、ホシです。

先日は、北アルプス・黒部源流にある 三俣山荘 に行ってきました。
9月下旬の北アルプスは紅葉のピークで、山が色づく最高のタイミング。今回は登山ではなく、三俣山荘が行う 「道直し」 という登山道整備活動に参加してきました。
STATICさんにお声がけいただき、貴重な体験ができました。

実際に現場で感じたことをお伝えしたいと思います。

三俣山荘の道直し 風景を守る登山道整備

登山道整備と聞くと、木段、木道、石畳、コンクリートなどさまざまな方法が思い浮かびます。
山や登山者の安全、歩きやすさを考えた手法は山ごとに異なりますが、三俣山荘では 「風景」を守ること を大切にしています。

道直しの目的は、単に歩きやすい道を作ることではありません。
植物や自然の景観、そして登山者も含めた 山の風景そのものを守るための活動 です。

登山道が荒れるのは自然のせい?登山者のせい?

登山道の荒廃にはいくつかの要因があります。
大きく分けると、自然の力と人の影響です。

① 雨や雪など「水の流れ」

登山道を流れる水は土砂を削り、道を深くえぐっていきます。
やがて道幅が広がり、植生が失われてしまいます。

登山道の側面に、苔の生えた壁のような場所を見たことはありませんか?

登山道の側面に、苔の生えた壁のような場所を見たことはありませんか?
実は、もともとは両サイドが地面と同じ高さで、つながっていた部分。
長年の浸食によって掘り下げられ、壁のように見えているのです。

実際に手を入れてみると、肘まで入ってしまうほど空洞がありました。
目に見えないところでも、地面は確実に削られ続けています。

空間は思っていた以上に深く、地面が削られているということがよくわかりました

② 登山者による踏み跡

もう一つの大きな要因は、私たち登山者自身
1人や2人が踏み外した程度なら自然の回復力で戻ることもありますが、
年間数万人が歩く登山道では、影響は大きくなります。
(三俣山荘さん付近では年に約3万人が通るそうです)

道を外れて歩くことで植物が踏み固められ、
新しい踏み跡ができ、雨が降るとそこに水が流れる——。
こうして登山道は少しずつ広がり、崩れていくのです。

③ 高山帯では「自然の回復力」が弱い

高山では気温が低く、微生物も少ないため、
植物や土壌が回復するのにとても長い時間がかかります。

15年前に閉鎖された登山道を見せてもらいましたが、
人が通っていないにもかかわらず、まだまだ回復途中といった印象でした。

自然の再生には、私たちが想像する以上の時間がかかります。

④ トレッキングポールの使い方にも注意

印象的だったのが、トレッキングポールによるダメージ の話。

石突きが剥き出しのままだと、植生や脆い地面を突き、
大きなダメージを与えてしまうことがあります。

真ん中の島がハゲてしまっている部分は、
実際にポールによるダメージで植生が失われた場所。

使い方次第で自然を傷つけてしまうこともある。
登山を楽しむ私たちの行動が、山の環境に影響を与えている——
そんなことを改めて感じさせられました。

道直し作業

「歩きやすい道をつくること」

何気なく置かれた石のステップにも、意味があります。
それは「ここを歩いてください」というサインであり、
「登山道を踏み外さないでほしい」という願い。

作業の大半は、石を運ぶことでした。
大きな石から小さな砂まで、種類も重さもさまざま。

土台となる大きな石
隙間を埋める中くらいの石
足を乗せるための平たい石

どんな配置にすれば登山者が歩きやすく、
自然に無理のないラインで歩けるのかを考えながらの作業。

1日半の作業で進んだ距離は、わずか10〜20メートルほど。
三俣山荘が管理する登山道は約40kmあるそうで、
そのすべてが整備を必要としているわけではないにしても、
この作業の地道さと膨大さには圧倒されました。

歩きやすい登山道があること、それ自体がどれほどありがたいか。
改めて実感した時間でした。

整備前、浮いた丸太や崩れた石

整備後、踏みやすい高さに石を積み直し、サイドにも植生が崩れない様に石を積んでいます

LOW INPACT HIKING 私たち登山者にできること

ウルトラライトハイキングとローインパクト

最近、登山界では「ウルトラライト(UL)」という言葉をよく耳にします。
装備を軽くして、より自由に、より遠くへ。
そんなイメージが先行しがちですが、ULの本質のひとつは
「ローインパクト=自然への負荷を減らすこと」
にあるはずです。

人にも自然にも余計な負担をかけず、
最小限の装備で、より自然に近い感覚で歩く。
その考え方が、ウルトラライトの原点。

最新素材の超軽量ギアを身につけることが、ULではないはずです。

新着論文:踏圧による登山道路面の変形実験

「踏圧」歩くことの登山道への影響

最近では、踏圧が植生や土壌に与える影響を調べる研究も進んでいるそうです。

登山靴を否定するわけでも、ベアフットシューズを推奨するわけでもありません。
大切なのは、歩き方そのもの。

ベアフットシューズを履くと、自然と足の置き場に慎重になります。
一方で、硬く守られた登山靴だと、石や木の根を強く蹴っても気にならない。
結果として、地面への衝撃が大きくなるということだと思います。

もちろん、北アルプスの縦走などではしっかりした登山靴が必要です。
ただ、どんな装備であっても、
「どこをどう歩くか」という意識の違いが、自然への影響を大きく変えるのだと思います。
トレッキングポールの使い方も含め、私たち登山者ができる ローインパクトの第一歩は、小さな意識の変化 かもしれません。

風景を守るために

この活動を通して、「歩く」という行為の重さを改めて感じました。
ほんの少し意識を変えるだけで、山の風景を長く残すことができる。

もし三俣山荘の「道直し」活動に興味を持った方は、
ぜひお店で声をかけてください。

自分たちの手で整えた道を踏みしめて下山したとき、
「またこの道を歩きに戻ってきたい」と心から思いました。
来年、行く山が一つ決まりました。

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